by Can Aslan
「ヤドカミ様に、お願いしてみたらどうや」
心に影を持つ三人の少年少女たちの「祈り」が、周囲にも、自分自身にも暗い刃を向ける……。
今回紹介するのは、「月と蟹」(道尾秀介著)です。
○作者について
道尾秀介(1975~)
初めはサラリーマンの傍ら作家を続けていたが、後に専業作家となる。
2005年、『背の眼』で第五回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞、後にデビュー。
2009年、『球体の蛇』は「ミステリーではない」ことを意識して執筆。
20011年、『月と蟹』が第百四十四回直木賞受賞。
○作品について
2010年、文藝春秋より出版
2013年、文春文庫より出版。
第百十四回直木賞受賞。
○あらすじ
小学五年生の慎一は、父を失い、祖父の故郷に引っ越してきた。
そこで、大阪から引っ越してきた春也と出会う。
彼らは、ヤドカリを神に見立て、「ヤドカミ様」として岩のくぼみに飼い始める。
そして、いじめっ子を懲らしめろ、百円ほしい……などの小さな願い事をするが、それが本当に叶ってしまう。
そして、慎一の母が同級生の父とデートをしている、春也の父が春也を虐待してくる……、などの暗い秘密を抱えた彼らは、恐ろしいことをお願いして……。
○感想
正直、「蟹」はあんまり関係ないな、どちらかと言えば「ヤドカリ」だな、と読んだ後に思ったことがこれだ。
ヤドカリを神に見立てて祭る、それなら子供のかわいいごっこ遊びにも見えるけれど、半ば新興宗教っぽくなっていることがまた怖い。
また、登場してくる人と人のつながりはいたって単純なのだが、そこには悪意と秘密が絡み合っていて、もうほどけなくなってしまっている。
「祈り」と言うのは、時に強い力をもってしまい、取り返しのつかない結果になってしまうのだな、と改めて思った。
後味は少し苦い、けれどどこか不思議な気持ちになれるお話だった。