信号無視とは、赤く光り輝いている信号を大胆にも無視し、無残に大地を横断するという卑劣極まりない愚行のことである。確かに、横断したくなる気持ちはわからないでもない。数歩で向こう側に行けるのだからな。だがしかし、決して渡ってはいけない。そういうルールだ。
(矢野ヒカル【真面目まじめで三千里】より引用)
帰宅途中、駅前の横断歩道にお坊さんがいた。
それ自体は珍しいことではない。が、様子がおかしい。
何やらそわそわしている。まさか、信号無視をしてしまうのか?
お坊さんは足を動かし信号無視を……
と思った瞬間、足を止めた。
バック・トゥ・ザ・フューチャー(Back to the Future)その技をヒカルはこう呼んでいる。
信号無視をするかのように見せかけて止める。信号無視を阻止する奥義の一つだ。
ヤンキーが良いことするとものすごくいいヤツに見える法則と同じで、最初は信号無視をしようとしていたが、気が変わり信号無視を止めた人を演じることにより、周りの人の信号無視を阻止することができる。
まさか……ヒカル以外にも使える人間がいるだなんて……
ただ…ただ、感動した。
この国は、日本は終わっていなかったのだ。
この想いだけで、生きていける。そう思った瞬間だった。