今昔物語を元に芥川龍之介が書きあげた、推理小説にも見える奇怪な小説。
数々の証言と、それらがうむ矛盾に、どのように説明をつければ真実が見えるのか。
それとも、真実を求めてはならないのか……。
というわけで、今回(バックナンバーはこちら)紹介するのは
「藪の中」(芥川龍之介著)
↑角川文庫1
○作者について
芥川龍之介 1892年~1927年
1914年、同人誌「新思潮」を菊池寛、久米正雄とともに刊行。この時の筆名は「柳川隆之助」
1915年、雑誌「帝国文学」に代表作の一つ、「羅生門」を「芥川龍之介」という筆名で寄稿。
その後、「新思潮」に載せた「鼻」が夏目漱石に絶賛され、有名となる。
1916年、初の短編集「羅生門」を刊行。
1927年、服毒自殺
○作品について
1922年、雑誌「新潮」一月号に初出。
その年に、「将軍」と云う短編集で初刊。
今昔物語を下敷きにした話で、芥川の「王朝物」の最後の話である。
事件の真相が不透明なまま作品が終わるので、「真相は藪の中」という言葉まで生まれた。
○あらすじ
殺人と、強姦という二つの事件をめぐり、4人の目撃者と、3人の当事者の証言がつづられている。
しかし、当事者の証言を取ってみても、そこには矛盾しかなく、真相は分からない。
「男を殺した」という盗人、「夫を殺した」という女と、「自殺をしたのだ」という男の死霊。
だれが真実を語っているのか、誰がウソをついているのか、何が真実なのか、何が……。
○感想
初めて読んだのは、中学生の頃だっただろうか。
その時は、この話は何を言っているのかさっぱり分からず、読み返すという気力も起きなかったように思う。
しかし、今読み返してみると、推理小説としての面白さと、人間のエゴが垣間見える皮肉さと、一度目では分からなかった作品の味を感じることができたと思う。
自分自身、この矛盾をはらんだ証言に合理的(?)な説明をつけてみたのだけれど、しかし、それが正解かどうかも分からない。
人によって、作品の印象も異なるだろうし、事件の受け取り方も違うだろうし。
真相を求めることは、もしかしたら間違っているのかもしれないし。
きっと、また日をおいて、年をおいて読み返すと、違った印象を受けるのかもしれない。
推理小説とは何かが違う、そんな奇怪で奇妙な、奇書なのだろう。
これで、近代文学を紹介するのは二回目ですね。
この前は、夏目漱石の「夢十夜」を紹介しましたが、あれとは全くジャンルの違うものですよ、これは。
噛めば噛むほど味が出る、みたいな、読めば読むほど味が出る作品ですね。
前回の予告をさらりとスルーしましたが、次こそは、綾辻行人氏の「深泥丘奇談」紹介します。