「密室」なんてもう陳腐。口に出しただけで笑われる。
推理小説の限界に辟易する、名探偵と刑事の苦悩。
今回は、「名探偵の掟」(東野圭吾著)を紹介します。
○作者について
東野圭吾(1958年~)
1985年、『放課後』で「第三十一回江戸川乱歩賞」受賞。後デビュー。
1996年、『名探偵の掟』で「このミステリーがすごい!1997」にランクイン。
2006年、『容疑者Xの献身』で「第百三十四回直木賞」、「第六回本格ミステリ大賞」を受賞。
「ガリレオ」シリーズがドラマ化されたほか、様々な作品がドラマ化、映画化している。
○作品について
1996年、講談社より出版
1998年、講談社ノベルスより重版
1999年、講談社文庫より重版
2009年、テレビ朝日よりドラマ化。
主演:松本翔太
構成:
- 第一章 密室宣言 – トリックの王様
- 第二章 意外な犯人 – フーダニット
- 第三章 屋敷を孤立させる理由(わけ) – 閉ざされた空間
- 第四章 最後の一言 – ダイイングメッセージ
- 第五章 アリバイ宣言 – 時刻表トリック
- 第六章 『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論 – 二時間ドラマ
- 第七章 切断の理由 – バラバラ死体
- 第八章 トリックの正体 – ???
- 第九章 殺すなら今 – 童謡殺人
- 第十章 アンフェアの見本 – ミステリのルール
- 第十一章 禁句 – 首なし死体
- 第十二章 凶器の話 – 殺人手段
- エピローグ
- 最後の選択 – 名探偵のその後
○あらすじ
名探偵「天下一大五郎」と県警警部「大河原番三」が出会う十三の事件。
ときどき彼らは本筋の話を外れ、二人だけでこそこそ話す。
「読み手はたいてい、こいつが本命、こいつが大穴って犯人の目星をつけてるんだ。だから、誰が犯人でも『やっぱり、わかってたよ』と言う」
「密室トリックがトリックの王様?そんな時代はもう古いよ」
「二時間ドラマだと、たいてい主人公は女になっちゃうのよ」
「どうして見立て殺人は童謡とかの通りに殺すんだろうな。そんなことしたって意味がないじゃないか」
「ご都合主義」等々。
ミステリ、そして読者への毒々しい批判が痛い、異色の推理小説がここに!
○感想
これを読んで、自分の馬鹿さにショックを受けた。
東野圭吾氏の、「読者は受け身じゃだめ」という精神が全てに貫かれ、読者を批判している。
『どちらかが彼女を殺した』(講談社)は、あえて解決編を省き、読者が嫌が応でもなぞ解きしなければいけない、という小説だった。
つまり、東野圭吾氏は、ただ口を開けて解決編を待っている読者に喝を入れている。
また、『名探偵の掟』の第十二章には、こんなセリフがある。
「この旅館に泊っているのは、私と(略)そして、A.B,C。彼らはこの話に関係がないので、名前がない」
つまり、登場人物を大勢出すことで読者を混乱させよう、という手法はアンフェアだと、作者を批判しているのだ。
東野氏は、ミステリの行く末を本気で心配している人だと、この本をよんで強く思う。
この「日本文学奇書に挑戦」も今回で二十回を達成しました。
よければ、バックナンバーも見てみてください。