by tony
「あのトカトントンの幻聴は、虚無をさえ打ち壊してしまうのです」
トカトントンと鳴り響く音は、幻聴なのか、はたして本当に……。
今回紹介するのは、「トカトントン」(太宰治著)です。
○作者について
太宰治(1909年~1948年)
青森県出身
1935年、『逆行』を雑誌「文藝」に発表。この時第一回芥川賞候補に挙がったが、川端康成に酷評され受賞を逃す。
1938年、結婚。このとき『富嶽百景』『走れメロス』などの代表作を残す。
1948年、愛人と入水自殺。遺書には、「小説を書くのが嫌になった」という旨のことが記載されていた。
死体は、太宰の誕生日の6月19日に発見され、以来この日は太宰が死の直前書きあげた『桜桃』にちなんで「桜桃忌」と名づけられる。
○作品について
1950年、新潮社より表題『ヴィヨンの妻』での短編集が出版される。
収録作は『ヴィヨンの妻』 『親友交歓』 『トカトントン』 『父』 『母』 『おさん』 『家庭の幸福』 『桜桃』
1996年、全国学校図書協議会より出版
青空文庫にも収録されている。
○あらすじ
ある日、偶然聞いた「トカトントン」という音。
以来、何かやろうと腰を上げると、「トカトントン」とどこからともなく聞こえてくる。
それを聞くたび、やる気がうせ、仕事も手につかない。
そんな郵便局員が、尊敬する作家に当てて書いた音についての相談の手紙の返事とは……?
○感想
太宰の作品は、「暗い」「死」とかいうキーワードでつながっていると思っている人が多い。
けれど、この作品は少し違う。
人間の愚かさとか、怠けぐせとか、現代人にもつながる話だと思う。
「トカトントン」と言う音を聞くとやる気をなくしてしまう、そんな経験をした人は少ないだろうが、
何かをやろうと腰を上げ、そして何かのきっかけでやる気がしゅんとうせてしまう、そんな経験をした人はいるだろう。
そういうどうしようもない現象について、喝を入れている作家の返事もまたおもしろい。
どこまでも辛口で、しかし真相をついている。
これを読めば、怠け癖も治り、何事にも集中できるようになるに違いない。
ダザイストを名乗るには程遠いけれど、私は太宰好きなので、この作品はとても楽しめた。
太宰の作風は、どれもちらちらと暗黒の雲が見えるのだけれど、たまに射す暖かい光と言うのに病みつきになってしまうのである。



