流れる時間には、だれも逆らえない。時間を逆行することは、誰にもできない。
時間を操る鉄道トリック、タブーを破る作品がここにあり。
今回紹介するのは、「マジックミラー」(有栖川有栖著)です。
○作者について
「【赤い月、廃駅の上に】日本文学奇書に挑戦!【第十一回】」をご覧ください
○作品について
1990年、講談社より出版
1993年、講談社文庫より出版
2008年、講談社文庫より、新装版として出版
○あらすじ
滋賀のある山荘で、女性の死体が発見される。
疑われたのは女性の夫、そして彼にそっくりな一卵性双生児の弟。
しかしながら、彼らには出張と言う鉄壁のアリバイがあった。
「一卵性双生児なら入れ替わりも可能」と、事件解決のために駆けまわる被害者の妹、元彼、そして警察。
けれども、証拠がつかめないまま、またしても殺人が起きてしまう。
しかも、その屍体には頭部がない!被害者は、双子のうちの、どっち?
○感想
- 双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない(ノックスの十戒)
- 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである⇒双子の替え玉トリック(ヴァン=ダインの二十則)
推理小説の指針とされる「ノックスの十戒」も、「ヴァン=ダインの二十則」でも、双子トリックについての記述がある。
ヴァン=ダインの二十則に至っては、「次のような手法は避けるべき」と厳しい批評だ。
しかしながら、この「マジックミラー」は、タブーとも言われる双子の替え玉トリックをさらりと、何の言及もなく、描いている。
もちろん、読者には公平だ。なんたって、主題は「時刻表トリック」なのだから。
双子の替え玉は、あらかじめ読者に知らされているし、さして問題ではない。
読者は、本文に挿入されている実物の時刻表をちまちまと見比べ、そのアリバイを壊す存在だ。
何ページにもわたって挿入されている時刻表を見るのは、結構目が疲れるし、頭も疲れる。
けれども、パズルのピースが一つ、また一つとはまっていくたびに、感動するし、作者の聡明さに驚く。
そして、最後の最後でのどんでん返しと、壮大なおまけ。
タブーなんてものともしない作品は、どこか清々しさも感じられる。
双子トリックを扱った作品は、「十三階段」(髙野和明)、「そして二人だけになった」(森博嗣)など、他にもあります。
タブーに挑戦するって、カッコいいですよね
「【マジックミラー】日本文学奇書に挑戦!【第四十七回】」への2件の返信
双子だと思った?残念三つ子ちゃんでした!みたいなトリックはアリなんだろうか……
その話、「キノの旅」にありますよ