「顔」のない人形、彼女たちは、どこかが欠けている。
遠い遠い景色、赤い花、黒く伸びた二つの影―ああ、あれは。
常識を覆す新本格ミステリ。表紙を開いた時から、あなたは暗い闇の中に。
今回紹介するのは、「人形館の殺人」(綾辻行人著)です。
○作者について
綾辻行人(1960~)
「【深泥丘奇談】日本文学奇書に挑戦【第十三回】」をご覧ください
○作品について
1989年、講談社ノベルスより出版
1993年、講談社文庫より出版
2010年、講談社文庫より、新装版として出版
○あらすじ
「私」、飛龍想一は、育ての母である叔母とともに実父・飛龍高洋が残した「緑影荘」に引っ越すために京都を訪れる。
その屋敷は本邸の日本家屋には部品の一つが欠落したマネキンが随所に配置されており、「人形館」と呼ばれていた。
そして、離れはアパートとして貸し出されており、三人の住居者が暮らしていた。
この離れは、改築の際、中村青司が関与したといわれている。
そして、近所では通り魔殺人事件が発生、さらに私のもとにも奇怪な手紙が届き、そのころから次々と奇妙な出来事が起こり始める。
私の命を狙う人物とは誰なのか? 恐怖に駆られた私は、大学時代の友人・島田潔に助けを求める。
○感想
「館シリーズ」のお約束は、主にこんなものがある。
- 事件が起こる館は、中村青司が建築したもの
- 青司はからくり趣味があり、館には「秘密の通路」「隠し扉」が必ずある
- 「江南忠明」、「島田潔(鹿谷門実)」の両方、またはどちらかが事件に関与している
「館シリーズ」を読む読者は、この約束をある程度頭に入れて、物語を進めていくものだ。
この「人形館の殺人」は、もちろん「館シリーズ」の一冊。
「人形館」で起こる奇妙な事件と、島田潔の存在で、「館シリーズ」というアイデンティティは確立している。
しかし、このシリーズは少し他とは違っている。
まず、飛龍想一の一人称ということ。そして、現実のものではないような、不思議な雰囲気が漂うところ。
そして、今までに出会ったこともない、奇妙で革新的なトリック。まさに「新」本格ミステリ。
「館シリーズの問題作」と銘打たれただけあって、「館シリーズもどきの館シリーズだが館シリーズの傑作」といえる作品だった。
騙された騙されないではなく、騙されてそして読み終わっても騙され続ける。
幻想的な雰囲気と、ミステリの共存。こんな魅力的な作品が、他にあるのだろうか。

