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by Eelke de Blouw

 

彼らは、不思議な生き物だ。

この世に生きている全ての生き物は、神によって決められた寿命を持っている。そして、その寿命をまっとうすれば死んでいく。この事実は不変で、確実なことで、古来より続く習慣である。それなのに、彼らは死を忘れているふりをしている。そして、死を恐れている。矛盾した心境で、自分は死ぬことはないと笑っている。

そして、矛盾した心境をどうにか片づけようと、彼らは技術を駆使し、生まれてくる彼らの同胞の寿命を割り出すことに成功した。子が生まれると検査に掛け、寿命を記録し、外に送り出す。しかし、寿命は本人に知らされない。そのかわり、死ぬ一週間前になると、手紙が送られてくる。「あなたはあと一週間で死にます」と書かれた手紙が。そして決まって、彼らは神に祈る。「ああ神よ、我を救いたまえ!」と。

馬鹿げている、吐き気がする。皆分かっているのに、自分はいつか死ぬのだと分かっているのに。神に祈っても、逃れられないと分かっているのに。私は何もできやしない。祈られても、ただ漫然と国を見下ろすことしかできない。「運命の歯車」に細工することは禁じられている。そんなことをすれば、国ごとの「運命の歯車」は連動しているので、下手すればセカイごと消滅してしまう。そうなれば、私も消滅する。神があるから民があり、民があるから神があるのだから。民が消えれば神も消え、神が消えれば民も消える。

一昨日もまた、誰かの家に手紙が届いた。大会社を経営する、若き青年実業家である。彼は手紙を見た途端、絶望した。手紙を持って、わなわな震えた。そうして、布団にもぐって泣き続けている。そんなことをしている暇があれば、やるべきことをやればいいのに。会社の引き継ぎやら、遺産相続の問題やら、身の回りの片づけやら。そうしないと、死んだあとたいへんなことになってしまうのに。

昨日もまた、誰かの家に手紙が届いた。日雇いで働いている、中年の男性である。彼は手紙を見た途端、笑顔になった。その手紙を大事にしまって、布団に横になった。「死ねるなんてラッキーだ。生きていても価値がないと思っていた」と呟いて。そんな彼をみて、私は哀れに思った。死ぬことを恐れていながら、死に憧れるふりをする。死ぬ間際までは笑っていながら、死ぬ直前には顔をゆがめる。自分の気持ちに素直になれない、そんな彼が哀れだった。

今日もまた、誰かの家に手紙が届いた。二歳ほどの女の子、その両親、役所の職員、鍛冶屋の息子、小学校の教師、人気アイドル、カリスマ美容師、汚職政治家、太った国王―。どうした、今日は何かがおかしい。手紙が街中を待っている。国民たちのコーラスが響く。「おお、神よ、偉大なる神よ、我を、どうか我を救いたまえ」

急いで「運命の歯車」のところに行ってみた。何か不具合が起きているのだと思ったからだ。けれども、そこにあるのはいつもと同じように軋んだ音を立てて廻る歯車でしかなった。もう一度国を見下ろしてみた。もう、手紙は国民全員に届けられていた。泣き声が止まらない。私は頭を抱えた。どうなっているんだ。これは、神の定めた運命なのか、それとも私が何か間違いを犯したのか。

国民のコーラスが頭に響く。こっちまで苛々してきた。私には何も出来ないのに祈られても困る。むしろこっちが祈りたい。「大いなる神よ、我を救いたまえ」と。

私はしばらくぼおっとしていた。どうにでもなれという想いで、耳をふさいでいた。こんなときに限って晴天で、陽気にうつらうつらしてしまいそうだ。すると、晴天の陽気を一陣の風が切り裂いた。その風は地上を吹き荒れ、そうしてこちらに吹きあげてくる。その風に乗って、一枚の手紙が私の目の前に落ちてきた。

緩慢とした動作で、それを拾い上げる。それは、これまで嫌と言うほど見てきた、あの手紙だった。きっと地上の誰かが捨てたものだろう。そう思って、封筒をうらがえしてみる。私は、そこに書いてある宛名を見て、目を見張った。

慌てて中をあける。そこには思った通りの文面が記してあった。『あなたはあと一週間で死にます』と。もちろん宛名は、『一の国 神』。その手紙を手に持ち、私は目を閉じた。自然と笑いがこみあげてくる。久しぶりに声を出して笑った。笑って、笑って、笑い続けた。

人に万能だと思われている私でも、死の鎖につなぎとめられている存在なのだ。その鎖からは、誰も逃れられない。そのことを再確認して、私はとても嬉しかった。自分も、普通の存在なのだと。死によってそれを確認するなんて、とても馬鹿げているけれど。

私は手紙を破いて、地上に降らせた。突然降ってきた紙に、国民たちは驚いて上を見上げた。その紙は風に乗り、国中に降り注いだ。それを見て、私はそこはかとなく悲しい気持ちに襲われた。

 

次回「君臨すれど救済せず」

                                                                                      

第二話です。減っていく数字は結構意味あります。ネタバレなんで言いませんが。

 

投稿者: 狼蘭

2015/3/4:卒業 小説を書いてる活字中毒な人。 今一番好きな言葉―「皆、思い込みを信じて自分勝手に生きているだけなんです。なら思い直せば別の世界にいける。過去なんてものは、もうないんです。未来が無いのと同じように」(関口巽) 京極夏彦「陰摩羅鬼の瑕」より 余談:アニメ版関口先生が無駄にイケメンで辛い