by YuMaNuMa
七尾「世の中に簡単な仕事なんて、ないんじゃないかな」
木村「怒ってるって言葉じゃ、足りねえんだよ」
王子「どうしてこんなに思い通りになるんだろうね。人生って甘いね」
蜜柑「俺がドルチェで、そいつがガッバーナだ」
檸檬「違う。俺はドナルド、そいつがダグラス」
上野発盛岡着。新幹線という閉ざされた空間の中で、殺し屋と、元殺し屋と、中学生と、「首の骨を折る」のが得意な何でも屋とがぶつかり合い、裏をかき合い、非日常な世界を紡ぎだしていく。
「グラスホッパー」から少し時間がたった、殺し屋達の壮絶バトル。(グラスホッパーについては、前回の記事をご覧ください)
今回紹介するのは、「マリアビートル」(伊坂幸太郎著)です。
○作者について
前回の「グラスホッパー」をご覧ください。
○作品について
2010年、角川書店より出版。
○あらすじ
元殺し屋で、息子の渉を「王子」に傷つけられ、復讐を誓い新幹線に乗り込んだ、「木村」。
見た目はインテリ風の中学生、しかし正体は、同級生を思いのままに操り、「社会実験だ」と大人を翻弄する、「王子」。
ハンバーガーを食べて「おいしい」というだけの仕事なのにハンバーガー屋が爆発するという過去を持つ、とことんツキのない何でも屋、「七尾」。
コンビで仕事をし、双子とも間違えられる殺し屋、読書が好きな「蜜柑」と、トーマスを溺愛する「檸檬」
「峰岸」という老人がまとめる強大な組織と一つのトランクをめぐって、それぞれの思惑が交差する東北新幹線。
閉ざされた空間で、壮絶で狡猾なバトルが始まる。
○感想
それぞれが狡猾で、騙し合い、裏をかき合い、知恵を使いあい、「グラスホッパー」よりはすこし過激な内容になっている。
それぞれのキャラが濃いので、笑いどころもあるし、派手に立ち回るので、ハラハラが止まらない。
「王子」が大人たちを翻弄し、思惑通りに、ことをはこぶ姿。
「蜜柑」と「檸檬」の軽快な掛け合い。
「七尾」は最初草食系か、と思うけれど、意外と強気で強い。
新幹線の中なので、どんどん時間が経過し、駅に止まる毎に起こるドラマに目が離せない。
随所にちりばめられた伏線がまた、物語を深くし、世界に吸い込まれそうな気がする。
非日常と日常の隙間の物語、ラストは奇妙で、何処か切なくなってしまう。
「マリアビートル」という題名は、「七尾」の二つ名、「ナナホシテントウ」から。
「テントウムシ」は英語で「ladybug」。この「lady」は、マリア様のことであるそうです。
さてさて、次はどんな作品にしましょうか。
余談ですが、今日は偉大なる名探偵、シャーロック・ホームズを生み出した推理小説家、アーサー・コナン・ドイル氏の命日、没後73年です。
外国文学も、紹介したいですね……。